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レポート

気象データを災害対応訓練に活用──ぼうさいこくたい2025でセッションを開催しました

202596日、新潟市で開催された「ぼうさいこくたい2025」において、「気象データの利活用をさらに進化させるには? 東大先端研ClimCOREの活動から紐解く気象データの利活用と展開」セッションを開催しました。

セッションには新潟大学大学院の本田明治教授、熊本県知事公室危機管理防災課の和田大志課長補佐、気仙沼市総務部危機管理課の高橋義宏主幹、東京管区気象台の小野沢和博防災調整官​が登壇。東京大学先端科学技術研究センターの大津山堅介特任講師の司会で、自治体・研究機関・気象庁が連携した災害対応訓練の高度化について議論を行いました。

新潟大学の本田教授は、線状降水帯や寒冷渦など近年の気象災害の特徴を詳しく解説。地球温暖化の影響により、豪雨や猛暑が頻発・激甚化している現状を示し、「これまでの経験が通用しない災害が日常化している」と警鐘を鳴らしました。また、地域の豊かさと災害リスクは表裏一体であり、人口減少が進む中で地域力の低下が防災対応に影響を与えていると指摘。災害に強い地域社会の構築には、科学的知見と地域の協働が不可欠であると述べました。

熊本県の和田氏は、令和27月豪雨を契機に、東大先端研および気象庁と連携し、気象再解析データと「キキクル」を活用した豪雨対応訓練の取り組みを紹介。従来の訓練では職員の経験や勘に頼る部分が多かったが、科学的根拠に基づくシナリオ作成により、訓練の「強度」と「正確性」を両立させることが可能となったこと、特に、過去の豪雨を再現・強化したシナリオを用いた訓練では、職員の対応力や危機意識が向上し、実際の災害対応にも活かされたと報告しました。

気仙沼市の高橋氏は、福島県相馬市で発生した豪雨を1.5倍に強化したシナリオを用いて、未経験の災害を想定した訓練を実施した事例を紹介。これまで毎年同じ台風シナリオで訓練を行っていたことへの課題意識があったが、特別警報の発令から避難情報の判断まで、緊張感のある実践的な訓練となったことにより、参加者からは「現実に近い」「対応の難しさを実感した」との声が寄せられ、災害対応力の向上に大きな成果があったと述べました。

東京管区気象台の小野沢氏は、気象庁における取組を紹介しました。自治体支援に加え、ライフライン・医療・報道など多様な主体との連携強化を進めていること、地域防災力向上のため、気象台職員を自治体に派遣する制度や、気象防災アドバイザー制度の活用の推進などについて説明しました。また、自治体向けの「気象防災ワークショップ」や市民向けのプログラムを通じて、気象防災業務の充実改善に向けて、「地域に寄り添った支援を今後も継続していく」と述べました。

セッション終盤では、登壇者によるパネルディスカッションが行われました。和田氏は、想定外の災害を科学的根拠に基づいて訓練に取り入れることの重要性を強調。高橋氏は、キキクル以外の情報との連携や、訓練環境のさらなるリアリティ向上の必要性を指摘しました。
小野沢氏は、気象庁が提供する支援策や、自治体職員の判断力向上に寄与する取り組みの重要性を説明、本田教授は「自分は大丈夫」という意識を捨て、災害を自分ごととして捉えることが地域防災力の基盤になると述べました。

本セッションは、気象データを活用した災害対応訓練の可能性と課題を共有し、行政・研究・市民が連携して災害に備えるための新たな方向性を示す貴重な機会となりました。

パネルディスカッションの様子

当日のアーカイブはYouTubeで公開しています
https://youtu.be/wKWyapoF6lI