天気予報の未来を変えるプロジェクト「ClimCORE」
気象観測がスタートしてから150年… いま、天気予報の未来を変える研究が進められています。
プロジェクトの名前は、「ClimCORE」(クライムコア)。東京大学や気象庁を始め、日本中の“天気のプロ”が参加しています。
天気予報は、観測点で測った気温・湿度・風などのデータだけでなく、それをもとに観測点がない場所の大気の状態も地表から上空まで計算し、それらがその後どう変化するかをシミュレーションすることで作られています。
「数値予報」と言われるこの技術は日々進化を続け、今の最新モデルで計算された3次元気象データはかなり高い品質・解像度で、大気の状態を再現しています。
しかし、進化のスピードが速かったため、ある課題が… それは、過去にさかのぼるほど、当時のモデルで計算された気象データが、今と比べて品質・解像度ともにやや低めになってしまっていることです。
今後、天気予報がさらに発展していくためには、過去の3次元気象データの質が最新のものに揃う必要があります。その課題を解決するのが、この「ClimCORE」です。

最新のシミュレーション技術をまるでタイムマシンで過去に持ち込んだかのように、当時の観測データからそのときの大気の状態を「再解析」し、気象データを今の最新のものと同じ品質・解像度にアップデートしています。これにより、過去の豪雨や台風などがどう起きていたか、これまでよりも詳しく把握できます。
過去から直近までの気象データの質が揃うと、気象・気候がどのように変わってきたかを今より正確に分析できるようになり、AIを使ってさらに精度があがった“未来の天気予報”の実現も可能となります。

この「ClimCORE」。いったい、どうやって“過去をアップデート”しているのでしょうか?“未来の天気予報”が実現すると、私たちの毎日のくらしはどのように変わるのでしょうか?
異常気象が日常に… 気象災害も激甚化
ゲリラ雷雨で1時間100ミリを超える雨が降ったり、最高気温40℃超えの地点がのべ30にものぼって熱中症の搬送者数が10万人を超えたり(2025年)… 今や異常気象は日常的に起きるようになってしまいました。
背景にあるのは、地球温暖化です。気温が上がり、海水温も上がることで、雨・風は激しさを増し、気象災害の激甚化が進んでいます。
土砂災害も増加傾向です。「平成30年7月豪雨」で2512件、「令和元年東日本台風」では962件発生するなど、発生件数は約30年の間に約1.6倍となっています。

命とくらしを守るため、発展してきた「気象観測」と「天気予報」
気象災害から命とくらしを守るため、たくさんの方々の努力で天気予報の精度は上がり続けてきました。

日本で気象観測が始まったのは今から150年以上前、明治時代初期の1875年です。 天気予報が出されるようになったのはその9年後、1884年でした。
1954年には、電波で雨の広がりなどを測る「気象レーダー」が登場。
1959年、天気予報用にコンピューターを初めて導入。
1974年、全国に「アメダス(地域気象観測システム)」が設置され、雨の量や風向き、気温、湿度などの自動計測が始まりました。
1977年には日本初の静止気象衛星「ひまわり」が打ち上げられ、宇宙からの気象観測がスタート。より広範囲の天気予報ができるようになりました。
2001年、日本周辺を10キロ間隔で計算できる「メソ予報システム」の運用を開始。2006年に5キロ間隔に高解像度化され、2022年にはシステムが大幅に更新され精度がさらにアップしました。
現在は、最新のスーパーコンピューターを使って膨大な観測データから大気の状態を予測し、質の高い天気予報を実現しています。
未来に向け、さらに発展するには“ある課題”が…
激甚化が進む気象災害に対応するため、さらに精度の高い天気予報へのニーズが高まっていますが、ある課題が浮上しています。
それは、予報の精度を上げるためには過去の気象データをさらに詳しく分析し未来の予報に生かすことが大事なのですが、過去にさかのぼるほど品質・解像度が今より低くなり、最新のデータと一緒に分析しにくいという点です。
この課題を解決するため、2020年から始まったのが「ClimCORE」(クライムコア)です。過去にさかのぼり、当時の気象データを次々と今のデータ品質にアップグレードしているんです。

「ClimCORE」で“過去にタイムスリップ”! 気象データを最新バージョンに
「ClimCORE」は、東京大学先端科学技術研究センターを中心に、気象庁、東北大学などの研究機関、企業、自治体の計30機関が共同で取り組んでいます。
東京大学のスーパーコンピューターに、気象庁が天気予報作成で使っているのと同じ最新のシステム(日本周辺域メソ数値予報)をコピー。それを使って、気象庁などが持っている過去の観測データを順番に「再解析」し、現在と同じ品質・解像度にまでアップデートしています。

「再解析」は、地表から上空まで水平方向は5キロ四方に、上空は37.5キロまでを96の層に切って行っています。

このアップデートにより、過去の天気やそのときの気象の状態・データをこれまでより正確に把握できるようになります。
“実力”は一目瞭然…!
「ClimCORE」の実力は、画像で見ると一目瞭然です。
【豪雨】
2019年10月、強い勢力を保ったまま伊豆半島に上陸し、関東地方を通過、各地に豪雨による甚大な被害をもたらした、「令和元年東日本台風」。
長野県では千曲川の堤防が決壊し、北陸新幹線の車両基地が浸水。神奈川県の箱根では、24時間で観測史上1位となる942.5mmを記録、48時間降水量は1001.0mmにも達しました。

このときの豪雨の様子を見てみると、従来の解析データ(※)では表現し切れていなかった局地的な雨の強弱が「ClimCORE」の再解析データでははっきりと表現され、実際の観測データに近いことが分かります。
精度が上がっている理由は、大気の状態を以前より細かく予測していること、予測のシミュレーションモデルが今の最新のものであることが挙げられますが、このほか、山などの複雑な地形の表現が以前より現実に近くなっていることも寄与しています。
【線状降水帯】
過去の線状降水帯もより鮮明に見ることができます。2020年、九州に甚大な被害をもたらした「令和2年7月豪雨」。線状降水帯が停滞して熊本県の球磨川(くまがわ)が氾濫。特別養護老人ホームの入所者を含め多くの方が犠牲となりました。

画像を比較して見てみると、従来の解析データ(※)では確認できなかった線状の降水域が「ClimCORE」の再解析データでは実観測に近いかたちではっきりと確認できます。
【風】
風の再現も鮮明です。2019年、三浦半島を通過したあと、強い勢力で千葉市付近に上陸した「台風15号」。
千葉県では、最大瞬間風速が千葉市で57.5m/s、木更津市で49.0m/sなど広い範囲で猛烈な風を観測。市原市ではゴルフ練習場の鉄柱が倒壊するなど首都圏各地に大きな被害をもたらしました。

画像を比較してみると、台風のどの部分の風がどれぐらい強いかという分布が、従来の解析データ(※)より「ClimCORE」の再解析データのほうがよりリアルに近く表現されています。
激甚化する気象災害に事前に備えられるよう、天気予報のさらなる発展は不可欠。「ClimCORE」はその実現が近づくよう、きょうも過去データのアップデートを続けています。
※従来の解析データ:地球スケールで、水平40キロ四方で再解析されたもの
「ClimCORE」で変わる未来、私たちの暮らし
「ClimCORE」の研究が進むと、様々な”未来”に具体的なアプローチをとることが可能になります。

【天気予報の精度向上】
過去の大気の状態が3次元でより高品質・高解像度で分かることで、当時出した天気予報の答え合わせができ、予報技術の向上が期待されます。 予報の精度があがると、より具体的に事前に備えられるため、防災・減災対策の質も向上します。
【再生可能エネルギーの安定供給】
風力や太陽光による発電は気象条件に大きく左右されますが、大気の状態が上空まで鮮明にシミュレーションできるため、羽根が地上数十メートルにある風力発電の効率的な運用が可能になります。日照時間のシミュレーション精度もあがるため、太陽光発電の安定的な供給にも役立ちます。
【地球温暖化対策が進む】
再生可能エネルギーの活用が進むと、二酸化炭素の排出量が削減され温暖化の緩和が期待されます。
「ClimCORE」によって過去から直近まで品質の揃ったデータが整うため、気象や気候の変化傾向の分析が進み、未来に起きることの予測精度があがってより有効な温暖化対策がとれるようになります。
また、「ClimCORE」は地域ごとに精度の高い過去の気象データを作成できるため、地球規模でシミュレーションされている気候の将来シナリオから、地域スケールの情報をより精度良く引き出すことが可能となります。日本各地でより信頼できる温暖化への適応策を策定できるようになります。
【AIの新たな活用を可能に】
長期間に渡る均質なデータはAIの学習にとても適しています。しかも高い解像度で、台風や線状降水帯などの表現力も向上したデータは世界に誇る品質です。今後、AIもシミュレーションに参加する”未来の天気予報”の構築が進みそうです。
【農業の生産力アップ】
雨・気温・風・日照時間などの予報がより正確になると、いつ・どう農作物を生産するといいかのよりよい判断がしやすくなり、生産力のアップが期待されます。
【交通・物流の最適化】
精度の高い天気予報が実現すると、鉄道や車など移動・輸送手段への影響も事前にシミュレーションしやすくなります。安全を確保しつつ、効率的な運行がさらに検討できるようになります。
【ドローンの効率的運用】
上空のより正確な風のデータは、今後活躍の幅が広がるドローンなど無人飛翔体の安全・最適な運行に貢献できます。
【保険業界の対応力強化】
過去の気象データが高品質になることで、保険会社の災害予測・リスク分析の精度がアップします。より詳細な災害対策情報の提供が可能になり、発生後の対応の質も向上します。
“未来の天気予報”を実現し、私たちの毎日のくらしを豊かにする研究、それが「ClimCORE」なのです。
「ClimCORE」プロジェクトリーダーからみなさまへ

今後私たちが提供する高品質の過去の地域気象データは、AIによるデータ駆動型社会の糧となりえるもので、あなたが暮らす場所で、さまざまな活動に最新の天気予報を最大限活かすことを可能とします。
私たち「ClimCORE」の活動をぜひ応援して下さい。